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「ほかの人と感じ方が違っていてもいいんだ」写真家は子どもたちに何を伝えられるのか?

ハービー・山口 You are a peace of art.

CAPA』本誌連動企画としてスタートした、ハービー・山口さんの人気連載「You are a peace of art.」。写真をめぐるエピソードを綴った心温まるフォトエッセイです。

ハービー・山口 You are a peace of art. 第9回「What can you see, how can you see through your camera?」
© Herbie Yamaguchi

第9回「What can you see, how can you see through your camera?」

写真家10名、児童300名の大規模ワークショップ

数年前、小学校の数校の児童を集め、写真家による写真教室が行われた。そこに私も講師の一人として参加した。学校の科目には、国語や音楽の授業が存在するが、写真の授業はないのが一般的だ。国語はというと、ひらがなやカタカナ、漢字、読み書きを習い、古典や新しいエッセイや小説を読んで感想文を書いたりする。そこには文法があり、正しい文章を書く訓練をし、社会人になっていく。音楽の授業では、バッハなどの古典から現代のポップスまでが教科書に載っていて、笛やハーモニカなど演奏の初歩を体験する。

国語、音楽、美術、またパソコンの授業はあるのに、写真は身近な表現手段であるにもかかわらず、その起源や古典的な写真、報道写真、作家の表現としての写真などについて教わる機会がほとんどないのが現状だ。そうしたことから、小学生を対象とする写真のワークショップなどが開かれるようになってきたのだ。

このワークショップには近隣の小学校からおよそ300名の児童が参加し、写真家10名が講師として勢揃いした。それぞれの分野で日本を代表する写真家たちだった。

子どもたちの心を育む一助となることを願って

それは良く晴れた日で、広い公園には緑が美しく輝いていた。午前中に1時間ほどの撮影時間が設けられ、小さな班に分かれた児童たちに講師が一人ずつ付き添い、公園内を撮り歩いた。

将棋を指している近所の方々がいた。
「写真を撮ってもいいですか?」
「あー、どうぞ!」
「撮らせていただいたら、ちゃんとお礼を言わないといけないよ」
「ありがとうございました!」と児童の元気な声が公園に響いた。

「この影を撮ってごらん、面白い形が出来てるよ。何人かいればみんなの指の影で星の形が出来るよ」
「お互いを撮り合っていろいろな表情を撮ってみようよ」
「この木の枝越しに空を撮ったらどうだろう、きっと面白い構図になるぞ!」
「この虫はかつて南の地方にしかいなくて、関東地方ではまず見られなかった種なんだ。逆に姿を消している種もあるよ。気候や、人間による環境の変化が影響しているんだね」

「そうした講師のアドバイスや説明に、児童たちは今まで気づかなかったことや、考えもしなかった工夫を知ることで、新たな視野を広げる面白さを体験した。また、講師が見守る中で児童たちが何かを発見し夢中でカメラを構える姿もあった。何を撮っているのかと逆に講師が興味を持つこともあった。児童たちは自分なりの好奇心で何かを発見し、必死に挑戦していた。その独自の視点を見守ること、自由にさせてあげることも、また講師の仕事だった。

そしてお昼前、全員が朝の集合場所に再び集まった。

写真家たちはどんな思いでシャッターを切っているのか

主催者である役場の方の閉会の辞が述べられたあと、突然、「最後に君が子どもたちにスピーチをしてくれ!」と私にマイクが回ってきた。準備がない状況では一体何を話したら良いものか慌ててしまうのだが、そうしたときは目の前の光景について語ることが一番だ。

私の目に入ってきたのは大勢の黄色い帽子をかぶった小学生たち、そして一列に並んだ10人の講師陣の頼もしい後ろ姿だった。よくこれだけの講師が一堂に集まったものだと感心した。その後ろ姿に10人それぞれが写真家として背負った物語が感じ取れた。

「今日はね、私たち写真家は、こんなにたくさんの皆さんと一緒にひと時を過ごせて、とてもうれしかったです。皆さんの前に並んでいる写真家はね、写真を撮り続けていることは共通しているんだけれど、実はみんな違う写真を撮っています。一人一人それぞれのこだわりやテーマ、スタイル、個性を持っていて、出来上がる写真はみんな違うんです。

ある写真家は、重たいカメラを持って、外国の山をずっと登って行きました。こんなに高い山の中に人間は住めないんじゃないかと思っていたけど、その国の人々はちゃんと自分たちで家を建てて立派に暮らしていました。そこでその写真家はね、人間にはこんなにも生きる力があるんだって感心して、尊敬の眼差しで目の前の家に向かってシャッターを切ったんです。

また、もう一人の写真家はね、カメラを持ってある国へ行きました。そしてその国の子どもたちに聞いたんです。『ねえ、青空って好きだろ?』。そしたらね、そこの国の子どもたちが言いました。『ある日、あの山の向こうから黒い飛行機がたくさん飛んできて、爆弾を落としていったんだ。そして僕の親も兄弟もいなくなっちゃったんだ。だから空なんて嫌いだよ!』。その写真家のおじさんは、もう二度と爆弾を積んだ飛行機がこの空を飛ばないように祈りながら、真っ青に澄んだ空と遠くの山に向かってシャッターを切りました。

そしてある写真家は、太平洋の南の島に行きました。ジャングルの中に小さな白い花が咲いていたんです。とっても綺麗でした。でもその花の奥には真っ赤に錆びた戦車の残骸が残っていたんです。そして海には不思議な模様がゆらゆらと水面に浮いていて、綺麗だった。でもね、この模様はもう70年以上も前に戦争で沈められた船から漏れている油が水面に浮いて出来ている模様だったんですね。その写真家はね、もう二度と戦争が起きないように祈りながら、白い花と油の模様の写真を撮りました。

そしてある写真家はね、街で見かける人々の何気ない素敵な表情や光景を撮っています。世の中には笑顔を向けてもらえない寂しい人たちがいるし、誰だって何かに困って悩むときがあるよね。そうした人々の心が、少しでもポジティブになれるような写真を撮りたいと思っているんだね。

そしてある写真家は、木とか葉っぱの上に棲んでいる虫ばかり撮っています。ちっちゃな虫にも命があるし、必死に生きているんです。そしてその写真家のおじさんはね、この地球はね、決して人間だけのものではないんだってことに気が付いたんだ。

僕たちはね、何かお手伝いができるなら、いつでも来ますからまた呼んでくださいね。今日はこんなにたくさんのお友だちが参加してくれて本当にありがとう。また会いましょう!」

自分のテーマを持ってシャッターを切ろう

「こんな撮り方やものの見方があったのか」
「ほかの人と感じ方が違っていてもいいんだ」

さまざまな刺激を受け、児童たちは元気よく帰っていった。その後ろ姿を、講師陣は頼もしく思いながら手を振って見送るのだった。

 

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https://capa.getnavi.jp/news/381443/