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どんなものに刺激を受けますか? 美容学校の出会いで写真家が実感したこととは

ハービー・山口 You are a peace of art.

CAPA』本誌連動企画としてスタートした、ハービー・山口さんの人気連載「You are a peace of art.」。写真をめぐるエピソードを綴った心温まるフォトエッセイです。

ハービー・山口 You are a peace of art. 第6回「Not only around photography」
「鏡のある教室」東京 2017 © Herbie Yamaguchi

第6回「Not only around photography」

分野は違っても共通するものがある

ちょうど3年前、東京の西早稲田にある早稲田美容専門学校、通称ワセビのイベントに参加した。ヘアメイクや着付けを含め、美容師を育成するのが主な専門学校だ。

この学校とは10年ほど前に知り合った。私がよくヘアをカットしに行く原宿や代官山に店舗を構える美容室BOYのスタイリスト、通称ヨッシーがこの学校の卒業生だったことから紹介され、お付き合いが始まった。以来、新入生が入学する4月以降、毎年1回の私の講演がレギュラー化してきた。

美容を専攻する、高校を卒業したての若者たちに写真家の言葉がどのように響くのかを自問自答したが、写真でも美容でもクリエイティブなものが必要とされる共通性はかなりあるので、写真の技術というよりは心構えや生き方を説けば必ず役立つと信じている。

先日も中小企業の経営者が集まる組織に講演を依頼されたが、反響は大きく、それぞれの分野で長く生き続けることに共通した理念や努力があるのだと実感した。

美容学校の学生による写真が大きな刺激になった

さて、ワセビでニューヨークセミナーと称し、ニューヨークで活躍する女性メイクアップアーティストの安藤ヒロミさんと、もう一人、やはりニューヨークからのヘアスタイリスト、ヘンリーさんの2名を迎え、在校生全員を対象にヒロミさんらの生き方や技術を間近に感じてもらう毎年恒例の特別授業が行われた。その場に私もここ数年呼ばれており、彼らがヘアとメイクを施したモデルを学校の近くで撮影し、学生に披露するという役目を担っている。

そして今年のセミナーの特徴として、写真コンテストが組み込まれた。これは学生が自分の作品へのコンセプトやテーマを決めるのはもちろん、モデルの発掘、選択、衣装、ヘアメイク、ロケ場所など、すべて自分でプロデュースしている。撮影は学生が自らシャッターを切る場合がほとんどだが、学生によっては知り合いのフォトグラファーとコラボしている場合もあるようだ。

エントリーした14名には一人一人ステージ上で自分の撮影意図について語ってもらい、同時に写真を投影してその場で順位を決める。審査員はヒロミさん、ヘンリーさん、小倉校長、そして私の4名だ。

ハービー・山口 You are a peace of art. 第6回「Not only around photography」
「手直し」東京 2017 © Herbie Yamaguchi

驚いたのはフィルムを使うことにこだわっている女子が複数いたことや、コンセプトがしっかりとしていたことだった。

例えば、ある学生は好きな映画の一場面をヒントにするというコンセプトで、モデルのポーズやヘアメイクのスタイルを決めたり、また「レクイエム」とタイトルを付け、若者の孤独、悲哀感を表現しようとした写真。「レトロポップ」というタイトルを付け、女性モデルをコインランドリーを背景にして昔のオモチャ風に撮影したもの。または「和と洋と艶」というコンセプトを立て、モデルの衣装の色は日本の国旗から白と赤にして、服の生地やデザインを選び、「洋」を表現するために外国人の若い女性をモデルにしてヘアメイクを施すという、実に理路整然とした組み立てとセンスが発揮された完成度の高い作品だった。

本人に尋ねてみると、インスタでイメージに合った人を見つけると、さまざまな項目を辿って行って、ダイレクトにメッセージを送り、相手とコンタクトを取るのだそうだ。そうした中には日本の大学に通う外国人学生や、実際にモデルをしている人もいて、撮影にあたっては3000円とか5000円をモデル料として払っているという。

エントリーされた14点の中には、そのままカルチャー誌の1ぺージを飾っても十分に通用する写真もあり、また逆に意図は素晴らしいけど、写真撮影の基礎がないためにピントや構図などの問題を残し、写真としては残念な出来というものもあった。だが、こうした美容を専攻している学生が写真に取り組んでいる姿を知るにつけ、写真専攻の学生がもしボンヤリとしていたら、きっと舌を巻くだろうということが容易に想像できた。正直に言えば、私にとっても大きな刺激となったのだった。

好奇心を持って経験を重ね、一歩ずつ前進していこう

また、会場ではヒロミさんにいくつかの質問が投じられた。その質問に対するヒロミさんの回答には多くの刺激が詰まっていた。

「アメリカの撮影現場ではね、クリエーターたちの着ているファッションは動きやすくてとてもシンプルなのが多いですね。黒の上下にスニーカーとか、でもよく見ると結構良い物を選んでいたり。あと古着をうまく選んで着こなしている場合もあるのね。ファッションビクティムではなくて、シンプルな服を着ているけど話してみるとすごく中身があって、人間としての個性がにじみ出てくるっていうのが素敵じゃないですか! 逆に外見はすごくファッショナブルだけど、話してみてすぐに退屈になっちゃう人だとがっかりするわよね。お金を貯めてね、少し高いけどお気に入りのデザイナーブランドを着て、それで自分が刺激を受けるなら、それはそれで良いことですよね。でもユニクロを着ている人も多いですよ。結局、皆さんもね、映画を見たり、旅をしたり、雑誌を見たりして刺激を受けるとか、たくさんの人と会ったり、好奇心を持って毎日いろいろな経験を重ねてね、自分の中身を磨くってことをされたら良いんじゃないかしらね!」

私は時にマイクを握り、ステージに上がったり下りたりしながら学生の写真を解説し、ヒロミさんに質問を投げかけたりもしながら会話の中に入っていった。

例えばこんな発言をした。

「かつて若いころ、自分よりお金を持っていたり、良い車を持っていたり、背が高かったりという人に劣等感とか焦りを感じていたけど、写真の世界に触れ社会に出ると、お金や身長ではなくて、自分より写真とかアートとか、人間としてセンスが良い人に嫉妬を感じることになりますね。でもね、生まれつき持っているセンスはどうしようもないのかもしれませんけど、ヒロミさんの言葉のように、日々の生き方によって人間性を磨き努力することで自分のセンスも磨くことができるとしたら、何か救われた気持ちになりますね」

ワセビは2018年で創立20周年ということだが、この日のセミナーはどの学校にも引けを取らない、立派な内容があったのではないだろうか。

夢を見る、表現を実践する、自分の課題を見つける、課題を一歩ずつ乗り越える、再び夢を見る……! そして日々、自分を取り巻く環境を見直して、刺激や人間性を磨く素材とする。そうしたことの繰り返しが、少しずつでも自分を高めていくための構造なのだと実感した素晴らしい一日だった。

 

ハービー・山口さんの写真展開催中
ライカそごう横浜店でハービー・山口さんの写真展が開催されています。

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2021年4月1日 (木) 〜8月31日 (火) 10:00〜20:00
ライカそごう横浜店 (神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店5F)
会期中無休
TEL 045-444-1565 (ライカそごう横浜店)